ペレットはむかな~い

ペレットとは大型インコの「カリカリ」

 ペレット、「pellet」とは、小さな粒状の固体のことですが、飼鳥の世界では、鳥用に各種原料を砕いて混ぜるなど加工成形して、栄養的に他に何も与えなくても良いとされる総合食のことになります。つまり、犬のドックフード、猫のキャットフード、それらのドライタイプ(「カリカリ」)と同じ位置づけです。
 1980年代、大型インコの種実飼料(ヒマワリの種や麻の実など)により高脂肪になってしまう点が問題視されるようになる中で、アメリカ合衆国において開発されたのがペレットです。その経緯については、現在も鳥用ペレットを製造販売するラウディブッシュ社がサイトで説明されています。
 要約すれば、カリフォルニア大学デービス校で16年にわたって愛玩鳥の栄養に関する研究などを行ったトム・ラウディブッシュ氏が、1981年、同大で研究用に飼育されている「Orange-winged Amazons」のためにペレットを開発したのが始まりで、その後、多くの要望を受けて1985年に商用として製造販売を始めた、になるかと思います。この「Orange-winged Amazons」を検索すると、キソデボウシインコの英語名だとわかるので(正確にはOrange-winged amazon、体重約400g、寿命は40年とされ、賢いことで知られるインコ)、大型インコのために開発されたものとわかります。
 そのラウディブッシュ社のペレットは、形状をそれぞれの鳥種に合わせる形で多様化し、西暦2000年頃には、日本で市販されているのを見かけるほぼ唯一のペレットになっていました。そこで、1999年に文鳥のホームページを始めた私も、飼料の問題の中で取り上げましたが(『文鳥問題』)、それに対して「ハリソンはモノがちがう!」といった批判があり、そのためハリソンのペレットも考察しています。そして、大型インコにとっては必要性が高いが、文鳥に用いる利点は少ない、といった結論となりました。

※当時のハリソン社は、後発のメーカーなので販路が限られていたに相違なく、日本では一般に見かけないものでした。それが、徐々に特に大型インコの飼い主に知られるようになったのは、「推し活」をされた鳥の専門医たちがいたからだと思いますが、彼らがなぜハリソン社を特別に推奨していたのかは不明です。ただ、当時「処方食」という言葉を耳にすることがあったことから、商品名のフォーミュラ「formula」を「処方」と訳して、動物病院で処方する特別なペレットのように誤解したようにも思われます。しかし、フォーミュラという単語の通常訳は「規格」のはずです(自動車レースのF1のFは「formula」のFです。エンジンや車体など一定の規格を満たしたレーシングカーを意味します)。これを飼料の名称とした場合は、独自の割合(=規格)で原料を配合して調整加工したとの意味合いとなるかと思います。とりあえず医学的な意味などありませんから、「処方食」と見なすのは無理があります。「処方食」という健康な鳥の日常食としては不思議な宣伝文句は聞かなくなりましたが、当然アメリカでは、ラウディブッシュその他のメーカー製ペレット同様に、動物の臨床医の処方などなくても、20世紀末から市場に流通しており、すでに通販で購入可能でした。

雑穀はヘルシーフードですよね?

 西暦2000年頃は、なぜか、大型インコで問題になった脂肪分が数十パーセントに及ぶ高カロリー(高エネルギー)な種実(ヒマワリの種や麻の実など)と、文鳥などの小鳥が食べる脂肪分10%未満の低カロリーな穀物(ヒエ・アワ・キビ・カナリアシード・米・麦など)を同一視して、「ジャンクフード」と意味不明なレッテルを貼って、ペレットを推奨する人が多く見受けられました。これは、ごく一部の少々一般常識に欠ける獣医師による「診察室トーク」を真に受けたものと思われますが、ジャンクフードとは、「栄養価のバランスを著しく欠いた調理済み食品のこと。高カロリーで糖分・塩分・脂質などは多い一方で、他の栄養素であるビタミンやミネラル、食物繊維などはあまり含まれない」もののことなので、調理どころか加工もされない種実や穀物に対して用いるのには無理があります。
 いずれも、ビタミンAやカルシウムなどを欠くので、それだけを食べれば栄養が偏り、特に種実は脂質がけた違い(穀物は数パーセント、種実は数十パーセント)に高いので、あまり運動のできない(=エネルギー消費が少ない)飼育環境にある大型インコの主食とした場合に、脂肪太りを招くことになりますが、それは主食にした場合の話です。例えばヒマワリの種も、抗酸化作用で老化防止に効果があるとされるビタミンEやコレステロールを抑制するリノール酸、骨を丈夫にする鉄やマグネシウムを比較的多く含み、その食物繊維は腸の活動に有益とされます。脂質が多いからジャンクフードなどという単純なものではなく、良い面もたくさんあるが、過剰になる面があるので主食には適さないのに、人間の栽培作物の中ではそれ以上のものが無かった、だけのことです。

ゾウに良ければ人にも良い?

 一部の鳥専門の臨床医を称する獣医師でさえ、鳥種による違いを認識されていない人がいて、インコで良いなら文鳥にも良いと単純に思い込んでしまうようです。しかし、大型インコと文鳥は、鳥類で飛べる、という点をのぞけば、何もかもが違います。それは、例えば同じ哺乳類でも、人間とゾウではまるで違うのと同様です。大きさにしても、文鳥25gに対して大型インコの中でも巨大なコンゴウインコは1000g以上あり、およそ40倍の開きがあります。これは60㎏の人間の40倍が3600㎏(3.6t)のアジアゾウと同じような比率です。もちろん、大きさ重さ以外でも、捕食行動も摂食行動も内蔵の仕組みまで、あらゆる点で異なりますから、ゾウには適しているものだから人間が食べても健康に良い、ことにはなりません。さらに、人とゾウなら寿命はさほど違いませんが(人70~80歳、ゾウ60~70歳)、10年未満の文鳥に対して、コンゴウインコは50年以上と言われており、人とゾウ以上に開きのある生き物とも言えます。

文鳥は穀物主食が当たり前

 では、なぜ、鳥類なら同じ、などと信じられるのでしょうか?。
 文鳥の飼育では、18世紀の江戸時代から、ヒエ・アワ・キビという雑穀を主食として用いられ、国産から海外産に移行したり、新たに海外で使用されている穀物(カナリアシード)が加わったものの、人が栽培した穀類を主食とする点では変わりありませんでした。そもそも文鳥は、ライスバードの別名でも知られるように、インドネシアの稲作文化に共生(片務共生)する生き物で、イネ科の穀物こそが野生で本来食べている主食で、それに合わせて身体機能や行動様式を進化させてきている生き物です。
 すでに、人との共生関係にある生き物は、人が栽培した穀物を食べさせれば、野生と同じような摂食が可能なので、とても飼いやすい生き物と言えます。実際にそのようにして、何百代も人間の飼育環境で繁殖してきた文鳥に、わざわざ飼育しにくい大型インコ用に人間が考案した加工食を与える必要性がどこにあるでしょうか?それは、せっかく飼育上の飼料として最善(=野生での食性に準じる)なものがあるのに、次善(野生の食性に準じたものを用意できないので加工したものを用意した)を有難がって与えるなど、よほど不思議な話ですはないでしょうか。
 従って、四半世紀前の私、西暦2000年頃の私の結論は、ペレットは「積極的にペレットを使用する必然性が文鳥にはまったく見当たらない」であり、現在もこの結論は変わりません。

宿屋のオヤジの使用感

 鳥の専門医でも飼育については素人同然ということもあるように、2000年頃の私は、すでに文鳥飼育の専門家を自認していましたが、ペレットで飼育をしていないので、実際にどのような影響があるのかはわかりませんでした。その後もペレットを使用する機会はありませんでしたが(試食はしてもらったがほぼ食べなかった)、お客様の文鳥君たちを宿泊でお預かりするようになり、短期間ながら、ほぼペレットだけで生活する文鳥を観察する機会を得ました。もちろん、おそらく文鳥をペレットで飼育する人は全体の1割に満たないので(そのような統計はないので、宿泊と販売での感触によります)、事例は少ないのですが、十数例のうち、穀物食の我が家の野良同然の文鳥たちと同じように文鳥らしく元気な子が半分くらい、おっとりとおとなしく瞳に「好奇心」が感じられない子が半分くらい、さらにその半分くらいがなぜか中型インコに適した大きなケージで遊具もない環境でした。
 ペレットの場合、お客様がお持ちになったエサでは足りない場合に備え(慣れない環境ではかえって食欲が増すことが多いので、自宅と同じ量では「飢餓状態」になる危険があります)、穀物飼料も別置しますが、すぐにペレットを食べなくなる子が多く、ペレットしか食べない子は(2例ほどですが)、ほとんど同じ場所でじっとしている時間が長い比較的に高齢なケースに限られました。
 ペレットはハリソン社のメンテナンスタイプ(『ADULT LIFETIME SUPER-FINE』)が過半で、ズプリーム社の製品がそれに続く感じですが、ズプリーム使用のお客様は穀物と併用されるケースが多く、穀物食の子たちと違いは感じられませんでした。一方で顕著なのは、とても活発な動きをする子たち、2、3例に過ぎませんが、同じハリソンでも決まってハイエネルギータイプ(『HIGH POTENCY SUPER-FINE』)を食べていました。
 事例があまりにも少ないので、個人的な印象の域を出ませんが、実際に使用する様子から見て、ペレットの嗜好性の低さが改めて理解され、また、メンテナンスタイプではエネルギー不足になる疑いが濃厚で、使用をお客様に薦めたお店の人間は大きめのインコ(オカメインコ?)の飼育と文鳥の飼育を混同している(手乗り文鳥はケージから出して遊べるので、さほど大きなケージは必要ない。せっかく広い空間があるなら遊具の一つも置くべきなのに、何もないので30畳もある個室の隅に布団を敷いて寝ているだけ、となって意味がない)、といった印象を持つようになっています。

※『ADULT LIFETIME SUPER-FINE』と『HIGH POTENCY SUPER-FINE』の違いは「Crude Fat」脂肪分の相違で、それぞれ6%以上と12%以上で、2倍の違いがある。なお、生きるためには食べるなどしてエネルギー(カロリー・熱量)を得る必要があり、そのエネルギーの元になるのが三大栄養素とも呼ばれる炭水化物(糖)とたんぱく質と脂質で、中でも脂質は他の2倍以上(4対9)のエネルギー換算量とされているので、通常、脂質の含有量が高いほど高エネルギーになる。

アダルトライフタイム ※末尾のパッケージ裏画像参照
  粗蛋白質(min):14%、粗脂肪(min):6%、粗繊維(max):4.5%、水分(max):10%
ハイポテンシー
  粗蛋白質(min):20%、粗脂肪(min):12%、粗繊維(max):5%、水分(max):10%

メーカーは高エネルギータイプを推奨!

 個人の印象は、思い込みに左右されるので調べれば調べるほど違った事実が見つかるものですが、ペレットの場合は逆でした。ハリソン社のサイトにおける製品説明を読んだだけで、すべての疑問のつじつまが合ってしまうのです。
 まず、ハリソン社のペレットを、文鳥を飼育していない獣医さんや店員さんに勧められて与えている皆さんは、文鳥の日常食としては、メンテナンスタイプの2倍の高脂肪(≒高エネルギー)を含むハイエネルギータイプが、メーカーによって推奨されているのを、ご存じでしょうか?2026年4月現在、サイトには次のようになっていました(メーカーサイト)。

「HIGH POTENCY SUPER FINE is a year-round formula for canaries and finches as well as budgies (parakeets) and other small parrots.」

「ハイポテンシー・スーパーファインは、カナリア、フィンチ、セキセイインコ、その他の小型オウム類のための通年用飼料です」

 「a year-round formula」、通年使用の配合と明記されています!本来は、「アダルト」=おとなの鳥(成鳥)の「ライフタイム」=一生の全期間で、メンテナンス=「日常維持食」「日常食」と同義の方が、「a year-round formula」で、ハイエネルギータイプは換羽期や産卵期に用意されたものだったはずです。実際、メーカーサイトのメンテナンスタイプの説明には、「non-breeding,non-molting birds」、繁殖期と換羽期を除く「a year-round maintenance formula」通年使用の日常食、とあります。もちろん、文鳥の繁殖期は換羽期以外の全期間と見なせるので、メンテナンスタイプは通年どころか使用機会がありません

 一体どちらが、文鳥にとっての日常食なのでしょうか?そこで、『HIGH POTENCY SUPER-FINE』「USES」、用途の部分を読んでみましょう(断っておきますが、私は中学生の頃から英語は苦手なので自動翻訳に頼っています)。

 「For birds that are molting, overweight, underweight, particularly active, housed in a cold climate, recovering from an illness or affected by liver or kidney disease.」

 「換羽期、過体重、低体重、特に活動的な鳥、寒冷地で飼育されている鳥、病気からの回復期の鳥、肝臓や腎臓の疾患を患っている鳥」

 脂肪分を2倍含んでいても、「overweight, underweight」の小鳥に適するとは不思議かと思いますが、その点は後に置き、文鳥に「particularly active」、特に活動的、でない子がいるでしょうか?彼らは起きていれば、食べるか羽繕いするか、はたまたブランコに乗って、水浴びをし・・・、寝ているとき以外は目まぐるしく動き回っている生き物です。つまり、文鳥には、本来は日常食の位置づけではなかったハイエネルギータイプを、日常与えるべきものに変わったものと見なせそうです。そして、その背景には、私が宿で預かった子たちのような現象、ライフタイム=メンテナンスタイプでは本来の活発な動きがみられなくなり、ハイエネルギーでは活発でいてくれる、という現象が頻発していたものと思われます。
 つまり、『Adult Lifetime』成鳥の日常用とされるものだけを、言われるとおりに与えていたら、実は活発な小鳥には低エネルギーを引き起こすので、高エネルギータイプが推奨されるように変わっていたわけです。ご存じでしたか?それは知らずに済むことでしょうか?少なくともメンテナンスタイプは、始めから文鳥にむいていなかったわけです。これは、動きがよりゆっくりな鳥種と活発な鳥種を分けず、広範囲の鳥種に適合していると見なした結果と言えるでしょう。これだけ与えればOK!→換羽や繁殖期にはハイエネルギーを使って!→動き回る個体にはハイエネルギーを与えてね!、とメーカーの見解は約25年の歳月をかけて変化しているのではないかと思われます。
 それではなぜ、文鳥の飼育により不向きなメンテナンスタイプを、「より小型の飼鳥には適さない」としないのでしょう?私にはわかりませんが、すでに長らく愛用し、おとなしくてのんびりした姿が「正常」と思い込んでいるような人たちの文鳥たちを、低エネルギーでおとなしくしてしまっただけ、とは言いにくいからではないかと推察します。実際問題として、おとなしければ、「particularly active」でなければ、「cold climate」でなければ、メンテナンスタイプでも生命の危険は無いので、使用禁止するほどのことではないとの判断もあり得るでしょう。その生き物を、その本来あるべき姿で飼育しようと思わないのであれば、です。

※浴槽のお湯はすぐには冷めきりませんが、コップのお湯はすぐに冷めます。これは内部の容積が小さいので、表面温度の影響を受けやすいためです。外気が寒ければ体温が低下しないように、心臓を動かして血流を盛んにしなければならず、小さければ小さいほど多くのエネルギーを得て、心臓を動かさないと凍死してしまうのです。この点を、少し細かに説明すれば、生きるために必要な基礎代謝量は、小さかったり寒かったりした場合は増大しますが、それをわきまえずに安易に代謝量は同じと見なして、体重比だけで、例えば1㎏のインコの1/40の25gなので、1/40のエサしか与えなければ、基礎代謝量もまかなえず飢餓状態に陥ることになります。体温は低下し外気温の低下に抗えず、死んでしまうことになります。つまり、寒冷地では高エネルギー推奨とは、そもそもメンテナンスタイプが小型種ほど体重比以上の栄養を必要とすることすら理解しないもので、小鳥には不向きな食べ物であったことを示しています。

ペレットによる摂食障害

 このメンテナンスタイプ、文鳥にとっては低エネルギー飼料の弊害は、四半世紀もの間、医療分野以外の専門性など欠片もない、飼育経験(※小学生の時に飼っていたは除く)がない鳥種の飼育に関して意見を言うなど非常識になる(私は十姉妹やキンカチョウやセキセイインコも飼育していますが、文鳥以外はあまり考えて飼育していないので意見は控えています。専門でなければそれが無難だからです)ことすら自覚しない一部の獣医の推奨に従って、基本的にそれのみを与え続けた飼い主の文鳥を苦しめてしまったはずです(体質も生活環境も個々に違うので、特に問題が起きないケースもあるでしょう。理屈で考えれば原因と見なせる危険性を持つと理解していただいて、問題がなければ変える必要はないです)。
 以前、メンテナンスタイプを与えている文鳥が過食で太ってしまうので、極端な摂食量の制限を行うように獣医さんの指導を受けているとのお話を伺ったことがあり、その量が小さじ一杯未満のあまりにも少量なので、不思議に思っていたのです。それが、メンテナンスタイプのペレットが文鳥にとって低エネルギー(≒低カロリー)だと気づいた瞬間に、不思議ではなくなりました。
 十分なエネルギー、具体的には脂肪分を得るために、加工され栄養を吸収しやすいペレットを過食してしまった結果、脂肪分以外のたんぱく質や炭水化物を過剰摂取して中性脂肪による肥満を引き起こし、それに対して安易なダイエット、量制限による異常な拒食状態(飢餓状態)にしてしまえば、拒食と過食をくり返す、まさに人の摂食障害同然になると気づいたのです。であればこそ、「overweight, underweight」、過体重、低体重のほとんどは、脂肪が二倍のハイエネルギータイプに切り替えれば解決したはずです。そしてそれは、メンテナンスタイプが文鳥には不向きであったことを如実に示しているに他ならないのです。
 文鳥は、低栄養の穀物を食べて栄養としているので、少しでも飢えれば食べるように進化しています。その自然な行動をしたら過食を招きかねない加工食品など不むきだと思いませんか?
 四半世紀も同じように推奨しているようでも、メーカーはそれなりに商品を改良しています。その原材料も変われば、栄養成分も変わり説明も変えます(初期には詳しい成分を書いていましたが、五大栄養素程度になっています。人工的に調整でもしない限り、細かな栄養成分を一定に保つなど不可能だからだと思いますが、いまだに細かな表示があった方が良いと思っているどころか書かれていると信じている人までいます。ペレットを推奨する獣医さんでも、メーカーのサイトやパッケージの説明文すら確認していない可能性もあるので、自分で現在の情報を得て、古い情報で文鳥に苦しみを与えるようなことは避けないといけません。
 文鳥をいきいきと元気に過ごさせるなら、メンテナンスタイプは向かないのです。もし、メンテナンスタイプを食べさせている自分の文鳥に異常を感じたら(動画などで他の家の文鳥と比べて違いを感じたら)、メーカーが現在推奨するのはハイエネルギータイプとであることを、しっかり理解して考えていただきたいものです。

繁殖用がなくなった!?

 文鳥の繁殖(ブリーディング)を行う立場から言えば、ハイエネルギーが日常に与える程度の栄養では、繁殖の際には栄養不足になります。科学的な説明はできませんが、これは経験上の真実です。普段ほとんど食べないボレー粉を、繁殖期のメスは抱えるようにしてバリバリとむさぼり食べ、ヒナが孵化して育雛に参加するオスも、やはりバリバリ食べ始め、青菜も顔中緑色にして食べるものなのです。もちろん、アワ玉の消費量も格段に増えます。
 いったい、この特定の栄養素に限って異常に上昇する必要量を、すでにすべての栄養を含むとするペレットで、どのように補えるのか、私には皆目わかりません。元々繁殖用とされたものでも足りない、必要な栄養素をまかなうためにたくさん食べれば、必要のない栄養も摂取してしまって肥満につながる・・・、とても調節が難しいのが、残念ながら、ペレット利用の実態です。
 つまり、ペレットとは、成長し繁殖せず活発に動かない生活が長期にわたって続くことを前提にした飼料で、ほとんどは10年間未満で生まれて育って年に一度は換羽して繁殖して老いて寿命を全うする、と目まぐるしく変化する、当然、必要とする栄養量も変化するような生き物には不むきなのです。
 では、換羽になったらタンパク質を強化した専用ペレットを別置、繁殖期にはカルシウムなどを強化したペレットを別置・・・、それでは「オールインワン」の利便性すら無くなってしまうでしょう。いろいろなペレットを副食で用意できるなら、なぜ自然食品の副食、と言っても青菜とボレー粉と粟玉くらいなものですが、を用意しても同じ、になってしまいます。
 結果、繁殖用としていたハイエネルギータイプを小鳥の日常食と位置づけた飼料会社は、さらに栄養成分を高めたウルトラ級のものを開発できず、副食用のペレットも用意せず、現在は、放っておかれている状態となっているのではないかと思います(中の人ではないので、本当のところはわかりません。メーカーから得られる情報からの推測です。なお、ハリソン社を対象にしていますが、同社は他のペレット会社より劣っているわけではありません。むしろ、原材料の工夫や情報の開示の面で優れているかと思います)。

栄養だけの問題ではない

 さて、いつもポリポリ食べ続ける文鳥が、殻付きの自然なエサを主食とした場合に肥満になることは稀なのはなぜだと思われますか?もちろん、動物行動学の専門家で文鳥を研究しているわけではない私にはわかりません。それでも、何らかの理由で栄養の吸収が抑制されていると推測はできますが、残念ながら科学的な究明はなされていません。
 ただ、摂食の問題は食べ物の栄養成分のみでは測れず、採餌行動が及ぼす身体への影響を理解する必要があり、その点、ペレットを栄養面のみで推奨する考え方は、問題意識が著しく欠如していたと言わねばならないでしょう。例えば、人においては「少食多噛(しょうしたぎょう)」という表現が江戸時代からあるように、よく噛んで食べることで満腹感を得やすくなって大食いが抑制される効果があるとされています。では同様に、殻をむいて食べることにより大食いが防がれている可能性もあるのではないでしょうか。
 今日の動物の飼育では、エンリッチメント、動物たちが活き活きと活動して繁殖できるような環境を用意する努力が続けられています。ペットを人間が飼育しやすいように家畜化しよう、または、活発に動けないような栄養状態にして、なるべく飼い殺しにする期間を長くしよう、などとは考えません。むしろ、飼育する人間の側の都合で、飼育動物の活き活きと生きる権利を阻害してはならないとする考え方(動物福祉)が主流となってきています。
 文鳥は、ペレットが開発されるはるか以前から、代々人の飼育下で繁殖しており、その点エンリッチメントは最低限でも満たされていたと考えられます。何しろ、エンリッチメントとは、栄養面では生きるのに十分なエサを与えられていた動物園の生き物が、あるいはライオンが檻の中で意味もなく一日中右に左に歩き回ったり、あるいはチンパンジーが観客に自分の汚物を投げつけたり、といった精神の健康を損なった状態になって、繁殖もせずに死んでいく、飼い殺し状態になる反省から、繁殖が出来るほど前向きに生きられる環境を、繁殖している野生生活のあり方から学びながら、飼育環境で実現させようという考え方ですから、何代も繁殖している環境はとりあえずエンリッチメントを満たしていたことになるのです。
 エンリッチメントとは繁殖を目指すものとするなら、繁殖時にむかないどころか、繁殖時の特殊な必要栄養量を満たすことが難しいペレットとは何でしょう?繁殖をしないで家の中で飛びまわることも出来ずに何十年も生きる大型インコにとっては必要十分でも、文鳥のエンリッチメントを満たせる食べ物とは言えません。

殻むきでストレス解消

 なぜ、うす暗い飼育小屋のケージに閉じ込められ、産めよ増やせよと繁殖させられながら、精神を病むこともなく、文鳥たちは子孫を残してくれたのでしょうか?なぜその環境で、エンリッチメントを充足できたのでしょうか?これまたもちろん、私にはわかりませんが、推測はできます。文鳥はごく些細なことで前向きに生きてくれる生き物なのを知っているからです。
 彼らは、ケージの中で飛びまわれませんが、体が入る水入れがあれば、遠慮なくバシャバシャと後先考えずに水浴びをします。水浴び後には乾かすために身ぶるいしますが、それは全身運動になります。そして、乾かすためにも羽づくろいしますが、これは文鳥にとってはリラクゼーションです。場所も取らずに自分でリラックスできてしまいます。よく揺れるブランコがあれば、それを自分で大きく揺らして遊びますが、昔の飼育下にはそれすらなく、エサにしても殻付きの単品飼料(ヒエだけ、アワだけ、キビだけ、狭い経験しかない繁殖業者が勝手な思い込みでそれぞれ決めたもの)のみで選ぶ楽しみもないことがあっても問題にしません・・・、なぜでしょう?私は殻をむく行為が、文鳥の採餌行動に重大な意味があったからだと思っています。
 ペレットではなく穀物を主食として与えている、圧倒的多数の飼い主なら周知のことですが、文鳥は穀物の中でもカナリアシード(カナリーシード)を好みます。あまりそればかりを食べようとするので、好きなら栄養があるからで高エネルギー(≒高脂肪)としか考えられない昔の愛鳥家たちは(私は科学的な裏付けを欠く「原始時代」と呼んでいます。ただ、「原始時代」に編み出された方法だから無視はしませんし、「原始人」だから尊敬していないわけではありません)、成分を調べて検討したわけでもないのに、カナリアシードを高脂肪と見なし、現在もそのような誤解が残っています。ところが、事実は栄養的には他の穀物と大して変わりません
 この際白状しますが、カナリアシードを好む理由を、単純においしいのだろうと考えた昔の私は(これも2000年頃ではないかと)、カナリアシードをせっせと指でむいて、ヒナのエサに混ぜていました。その後「ムキシード」として剥いたカナリアシードが売られているのに気づいて購入し、みんな喜ぶだろうと思ったら、まったく不評でがっかりした経験があります。そこで、考えたのが「むきごたえを楽しんでいる」です。
 文鳥に限らず多くの鳥類はエサを丸呑みするので、舌で味わう能力は大して必要になりません。つまり、味にはうるさくない、と考えられています(味蕾が少ないといった研究があるはずですがここでは深入りしません)。栄養ではない味でもない・・・、そこで先天的にクチバシの形状が小さい文鳥が、上クチバシにカナリアシードを詰まらせて、物が食べられなくなってしまうという事故を思い出し(ウチでは発生せず最近は聞かないので、一部にそういった系統があったのかもしれません)、どうやってカナリアシードを食べているかを観察し・・・、ポリポリっと単純に殻を横から出して食べる子もいれば、剥く前に角度を縦にしたり横にしたり舌で転がしてから食べたりしている子もいるのに気づきました。そこで、これは舌触りを楽しんでいるのではないか、または、噛み応えなり剥き応えが好きなのかもしれない・・・、と考えるようになったわけです。
 つまり、人間は気づきませんが、文鳥は一つ一つのエサの摂取で違いを理解して楽しんでいるのだろう、と理解しています。そして、殻をむく行為はストレス解消につながっているからこそ、一種類でもエンリッチメントが満たされてしまうのだろうと、見なすようになりました。しかし、これは当然とも言えます。残念ながら、殻のないペレットは、そのような欲求を満たすことも出来ません。そればかりか、クチバシでむく必要がないため、クチバシは牙状に伸びやすくなったり、あるいはクチバシそのものが矮小化して弱くなる可能性もあります。剥かないからむかないのです。

文鳥にはむかな~い

 文鳥を低エネルギーでおとなしく従順にさせられた家畜ではなく、活き活きと元気に羽ばたき鳴きこちらをキラキラした目で見つめる伴侶として飼育する場合、残念ながらペレットは、開発から今日に至るまで不向きであり、従来の穀類に青菜やボレー粉などを組み合わせるのが無難と言わねばなりません。
 そもそも、生き物の採餌行動はそれぞれの行きもによって独自に進化したもので、その野生でのあり方を謙虚に観察し検討しなければ飼育下で再現できず、繁殖どころか生きながらえさせるのも困難になります。
 例えば、パンダは笹しか食べず、コアラはユーカリしか食べません。栄養的にはこちらの方が優れていると、パンダ用団子やコアラ用団子を作っても、食べてくれません。普通に考えれば、笹は消化が難しく、ユーカリは毒性が強く食べ物にはしがたいですが、彼らはそれで生きるように何千年何万年とかけて進化しています。例えば、日本のライチョウは長らく人工繁殖が出来ませんでしたが、野生で何を食べているか地道に調査して、成長期の腸内環境を整えるのに特殊な高山植物と、親などのフンを摂取する必要があることがわかり、人工繁殖が可能になっています。単純に栄養だけでは済まないのです。
 栄養だけでペレットを推奨するなど、およそ生き物の飼育に対しての理解を欠いています。例えば犬のドックフードは便利ですが、それが主流になった今日、昔は無かったはずの食べ物アレルギーが激増しており、飼料会社の模索も続けられています。そのようなことを多少でも理解した人が、奇跡的に栄養以外での弊害が少ないだけとも知らずに、「ペレットだけを与えていればOK」などとするのは、たんに飼育に無知だからに過ぎません。そういう人こそ、文鳥飼育にむかな~いになりかねません。
 論点はさまざまに有ります。現在の科学ではわからないことも多いです。あるいは将来、穀物の栽培が滞ってペレットに頼る事態もあり得るでしょう。しかし、現在は、より文鳥むきの穀物を与えるのが無難です。選択を間違えないように、10年の付き合いが無病息災で過ごせるように、他人任せにしないでお考えいただければ幸いです。

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