「サ道」は左道に他ならず

 サウナ店を称する施設で起きた事故の記事を読み、「意図的に火災起こし異常知らせようとした」とあるのに違和感を覚えた。
 ドアノブが壊れて外に出られず、奥様が意識を失い、非常ボタンが作動しないとなった際、火事にして火災報知機で知らせよう・・・とは考えないだろう。そこに石とタオルがあるので、石をタオルでくるんでガラスを割ろうとしたものと思う。もしハンマーのように使えれば、車のフロントガラス程度なら割れるはずだ。ところが焼石は引火点に達しており燃え上ってしまい火災となった、といった経緯が推測されよう。
 つまり、高温の中で被害者は冷静に逃げる努力をしており、過失は全て施設側にあるように思える。死因は、高体温症というより熱中症、直接的には脱水症だろう。それにしても、大変に気の毒である。

 サウナは数年前からブームのようだが、いろいろ位置づけが誤っているように思っていた。まず、施設面だが、高温多湿で汗をダラダラ流させる健康リスクは甚だ高いものだが、驚くほどに危機感が薄い。蒸気の蔓延する環境に換気装置すらつけず、ドアノブは腐食しやすい木製でさびやすい鉄製のネジだったと言う。あまりにもお粗末な設計と言わねばなるまい。緊急時の呼び出しボタンもない密室、しかも引火の恐れがあるなど、有り得ない話である。
 サウナと水浴を繰り返す使い方を「サ道」と称し、何やら手順やら心がけやらを作法として面白がっているようだが、それは体の鍛錬にはなっても癒しにはならない。ましてや、血管は鍛えられないので、寒暖の急激な変化で普通に脳卒中や心筋梗塞につながる。従って、ある程度の年齢に達しながらいつまでも若い気分で体をいじめれば、健康どころかご臨終もしくは半身不随の苦難が待ち受けることになる。このサウナと水浴を繰り返すことでリラックスしたと感じる状態を「整いました!」と言うらしいのだが、体をいじめて頭の中がカオスになっているだけで、整うどころか混乱の極致を気持ちが良いと錯覚しているに過ぎない。おそらく、脳に与えるダメージは負の方向で多大であろう。薬物乱用と同様となり得るだろう。
 ところが「サ道」なるものは、あたかも誰にでも健康的なもののような誤解を招いている。体温をはるかに超える高温で汗をダラダラ流し体内の水分を減らして、冷水に入って一気に体を冷やすを繰り返すなど、体をいたわる観点から見れば自殺行為でしかないのは明らかではなかろうか?

 そして、意識障害を起こしやすい負荷をかけるものが個室となれば、いったい誰が異常を察知し救命できるのか?本来のサウナは公衆浴場の一画にあるなどして、不特定多数が楽しむ娯楽だったのをわきまえていないのではなかろうか。浴槽で近所のガキがのぼせたり、サウナ室で向かいのじいさんが目を回しても、誰かが近くにいるから笑い話で済んだのである。個室などと新しい形態を続けたければ、それ相応の配慮は欠かせないことを、周知徹底すべきだ。
 そもそものサウナは汗を流して体の汚れを流すものであり、本来的には健康に資するもので、体をいじめる小道具ではない。つまり、現在の「サ道」が無茶苦茶なだけである。水分を摂取しながら汗を流し、冷たく感じる程度の水に浸かって汗も洗い流し、フルーツミックス・・・、コーヒー牛乳・・・、よりスポーツドリンクを飲む。ようするに、昔の銭湯で見た光景、が正しいあり方と言えるだろう。それではつまらない?命懸けでスリルを求めるガキだけが、自己責任で勝手に死ねば良いのである。そうでもない人に誤解を与えて、貴重な人命を失うようなことはあってはならない。
 日本でも、元々のお風呂はサウナである。焼け石などに水をかけて汗で汚れを落としていたのが、湯船につかる方式に変わったのは江戸時代かと思う。では、その前近代のサウナが、熱い冷たいを繰り返して脳を麻痺させ血管を損なうものであっただろうか?もちろん、違うのである。「サ道」は常識を外れた「左道」(邪道)に過ぎない。その認識こそが肝要である。

 ところで、ウチの近所に運慶派の仏師が制作したと思われる不動尊像があり(現在、奈良国立博物館に出張中。私は見に行ったことが無いのだが、画像からつなぎ合わせている印象を受けていて、奈良国でいろいろ調べて新たな発見があるのではないかと期待している)「追い風不動」と称している。前髪が横にたなびいた姿なので、風でかみがなびく、風は追い風で縁起が良い、となかなか機知に富む最近のご住職が考案されたものらしい。
 そういった連想をする人が私は大好きで、さらにその追い風にあやかるべく、大うちわで仰ぐと言う演出までされていると知って、檀家になろうかとさえ思った。そして、まさにサ道における熱風起こしパフォーマンス(蒸気をタオルやうちわであおって体にあてる)に通じる。つまり、サウナにおける安全を守護されるサウナ不動様なのである。と宣伝すると良さそうに思った。
 今現在は不動尊像はお留守だが、お身代わりのレプリカで功徳は同じなので、サ道愛好者はお参りされたら良いだろう(近所なのに行かない人が言う)。たまたまダメ業者のダメ施設に入ってひどい目に合うのを防いでくれるかもわからない。

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