うがい薬を飲み水に混ぜた人はもういない?

 

甲状腺腫ではない。遊び過ぎて疲れているだけ

 近頃は、昔の不行跡を真面目に取り上げて非難するのがはやりらしい。
 例えば、入院して難を避けるとは政治家並だと感心していたとんねるずの石橋貴明さんだが、案外に仮病ではないらしいのに、謝罪に追い込まれている。確かに、他にもはたけばいくらでも出てきそうなキャラクターではあるが、未遂の話では、中居くんの婦女暴行と「類似事案」と言えるのか、議論があるかと思う。
 セクハラもパワハラも現代人としてのモラルの上で問題行動だが、過去に遡及すべき話であろうか?パワハラまがいの行為をして、問題視された後の行動の方が問題で、また、厳重注意をしなければしない会社組織が問題だろう。管理義務がしっかり果たされたか、再発はなかったか、こそが重要で、セクハラと言えそうなもの、パワハラと言えそうなもの、を過去からほじくり返して責め立てても生産的にはならないだろう。
 昔の話と逃げられず、刑事犯罪に類すれば、その後築いた名声も失って犯罪者とされる。刑事犯でなくとも、疑惑の目で見られてしまうので、反省をしている態度は欠かせないものとなっているように思う。

 ところで、愛鳥家の皆さんは、四半世紀ほど昔、小鳥の専門医として評価が高かった獣医さんたちが、飼鳥の飲水にうがい薬などのヨード剤を日常的に毎日添加するように『指導』していたのを、ご存知であろうか?過去の問題行動として水に流せるものか、道義的にせよ責任を問い続けるべきものか、私は判断に迷っている。しかし、寡聞にして当事者の反省を聞かずいつまでも区切りがつかない気持ちなので、この際、当事者たちの反省を促したい。否、反省はしているはずなので、少し態度に示してもらいたいと思う(不特定多数の被害者に対して。私は被害者ではないので無関係)。

 記憶は曖昧ながら、1997年生まれのガツがヘビに襲われて脚を引きずっていたので、骨折の可能性を考えて、東横線反町(たんまち)駅近くにあった横浜小鳥の病院へ連れて行ったのは、2000年8月のことであった。記憶がなくても記録はあった。その時の様子は、誤字脱字を多く含む昔の記録『文鳥の系譜』「25、動物病院に行った日」に詳しく書かれていた。
 小鳥専門の動物病院である『リトルバード』を開業されることになる若き小嶋氏は、後述のご著書にある略歴によれば、1998年に獣医資格を得て2000年から2年間横浜の海老沢氏の元にいて、その後開業されているので、まさにその2年間という短い期間に、私はご拝顔の栄に浴することが出来たわけだ。

 文鳥は甲状腺障害を起こしやすいと、はじめて手振りをまじえて具体的?な説明をし、「一つ出しておきましょう」とすんなりとおっしゃる。ここで「そんなものいらねえ」と本音を言っては角がたち過ぎ、下手をすると善意の人間を怒鳴りつけるはめになりそうなので、家にイソジン(うがい薬、内容はヨード)か何かがあるとして不用の旨を伝える。

 「イソジン」とこちらから言ったのは、事前にそういった『指導』があることを調べていたか、渡された紙切れに印刷されていたか(※4/22に紙切れを「発掘」した。イソジンの文字はなかった)、両方か、ではなかったかと思う。ヨード剤の処方を拒否するための方便に過ぎないが、何の用意もなければ、うがい薬を飲ませるなどと考えつかず、若輩だった私に答えられまい。

 その後は、特に問題にすることなかったが、2006年11月に発行された『コンパニオンバード』において、小鳥専門の獣医さんとして名高かった真田、海老沢、小嶋、三氏が小鳥の栄養摂取について鼎談され、また、小嶋氏が甲状腺腫がヨウ素の不足で生じるとの解説記事があり、その内容に大いに疑問を感じることになった。その言説から、過剰摂取による一種の薬害があった可能性を強く感じたからである。何しろ、JRや京急の沿線にあった『サカタのタネ』内のペットショップに宿泊しているらしい小鳥の飲水が赤いのを見て、処方されたヨード剤かイソジンのうがい薬か知らないが、毎日毎日飲み水に混ぜている人の存在を確認してウンザリしており、彼らの美味しい水を飲む権利は誰が守るのだろうか。と憤慨してもいたのである(飼い主が自分で調べもせず、科学者としてはお話にならない臨床医の思い込みに従って、我が子のような小鳥に実害を与えて良いものだろうか?)。
 そこで、素人なりに調べて、ヨウ素が欠乏する可能性は低く、むしろ過剰摂取になる可能性が濃厚であるとの批判をたびたびおこなった。小嶋氏は、1994年に『AVIANMEDICINE』に掲載されたという「オウム目スズメ目全体の栄養必要量」を拠り所に、必要なヨウ素量をを割り出しているが、根拠不明な数値を基にしての議論は危険に過ぎる。理論に現実を合わせるのではなく、現実から理論を考察すべきで、教科書にあるものを絶対視しているようでは高校生と変わらないではないか。

ヨードと甲状腺障害
 http://www.cam.hi-ho.ne.jp/bun2/mondai/mondai10.htm#%E3%83%A8%E3%82%A6%E7%B4%A0%E9%81%8E%E5%89%B0
ヨウ素のエビデンス
 http://www.cam.hi-ho.ne.jp/bun2/mondai/mondai33.htm
ヨウ素の必要量への大きな疑惑
 http://www.cam.hi-ho.ne.jp/bun2/mondai/after/gokai.htm

 何の症状もないのに気安くヨード剤を処方されかけた経験者として、批判するだけはした。実害のあった人、むしろ、20代の駆け出し獣医の戯言を信じて、自分の小鳥を苦しめてしまった飼い主たちが、5、6年後のこと故、まだ飼育している可能性があるので、少しは手加減もした。
 小嶋氏も、記事の末尾に簡単だが「与えすぎももまた甲状腺腫を招いてしまいます。その投与量には充分注意しなければなりません」と明記しているので、「このへんにしといたらぁ~」と思ってその後はまた忘れていた。あとは、ブログ上で、2006年の段階で、先輩格の真田、海老沢両氏の賛同が得られなかった、ゴイトロゲンを含むからアブラナ科の野菜は危険、という自説を改めていないようだったので、2012年2月6日のブログで、「獣医いわく「青菜は与えないで下さい」」と題して批判を行った程度かと思う。

 2010年に刊行された小嶋氏のご労作『コンパニオンバードの病気百科』は・・・、2015年に古本で入手したが、その後必要に応じて便利使いするだけだった(「百科」とはそういうものではないかと・・・)。ので、ヨウ素やゴイトロゲンや塩素という、気にしなくて良いことにばかりこだわった記載をしているのを、私は気づかなかった。ところが、何と、ただ今現在2025年になって、そうした記載があることに気づいた。1世紀・・・まではいかないが10年気づかないとは、さすがである。
 この間のコロナで、誰もが世話になった次亜塩素酸ナトリウムを、混ぜたら危険、つまり混ぜない限り危険がないので『ハイター』として、子どもから大人にまで愛用されているのだが、その現実を無視して「最も有効な予防法は、塩素系消毒剤を使用しないことです」と小嶋氏は言い切ってしまっている。この獣医さんが、次亜塩素酸ナトリウムを用いずにコロナ禍を乗り越えた奇跡を喜びたいが、しかし、実は小嶋氏は2006年の段階から、「塩素にも甲状腺を悪くする働きがあります」と断言しているのにも気づいた。これは、甲状腺に悪影響を与える可能性が高い過塩素酸ナトリウム(NaClO4 )と次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)を混同したのかと思うが、もちろんまったくの別物である。もしかしたら、「塩素」という文字だけで反応してしまうのだろうか。何やら『ハイター』にトラウマでもあるのか、世の中から消し去りたいのではないかと勘繰りたくなるこだわりようだ。もちろん、そのような個人的な好き嫌いを持ち込まれては、科学的客観性など期待できない。

 それはさておき、『コンパニオンバードの病気百科』のP135にはヨウ素欠乏症(甲状腺腫)が立項されており、その予防として「従来から用いられてきたルゴール液やポヒドンヨードの添加は味が悪く、ほかの添加物による副作用などが心配されるため、用いられなくなってきてます」などとある。用いられてきたのではなく、ご自身が用いさせてきた、それも日常摂取させてきたのだが、まるで他人事だ。ポピドンヨードはイソジンのうがい薬と見なしえるが、味が悪いからとか、副作用のが問題である以上に、過剰投与になるから問題なのに、明らかに現実を直視しようとしない無責任な姿勢を示している。
 過去の過ちを誤魔化せたと思っているのかもしれないが、2011年の原発事故後 ヨウ素の過剰摂取による甲状腺機能低下症が問題視されたことで、一般の理解は深まってしまった。ヨウ素の日常添加の危険性がより現実のものとなり、次のような説明がなされる時代になているのだが、この際、四半世紀前の小嶋氏たちによる小鳥医療でのヨウ素処方と比べていただきたいものである。

 「特に、ヨード系うがい薬や一部の健康食品(根昆布のエキスなど)を常用すると、大量に含まれている「ヨウ素」によって甲状腺の働きが抑えられ、機能低下症になることがあります。この場合は、それを止めれば治ります」

 これは京都医療センターという病院のサイトで見かけた説明だが、放射性ヨウ素が甲状腺腫を引き起こすことを心配した一般人の中に、ヨウ素剤を飲みたがる者がいて、さらには、うがい薬などでそれを多く摂取して、過剰による機能低下を引き起こす例が多発し問題視されているわけである。

 当時の若き獣医さんたちは、このように頻繁な服用が禁忌とされるものを、小鳥では問題ないとする一片のエビデンス(evidence・科学的根拠)を示さずに小鳥に強いてしまっていたわけだ。
 四半世紀前にあなた方の勝手な誤解で飼い主に強制し飲水をまずくしてまでして無理やり飲ませた挙句に甲状腺腫にしてしまった小鳥たちに、一片の良心があれば反省の気持ちくらいはあるだろう。この際、その気持ちを態度で示されたらいかがであろうか。過去を糾弾されるご時世に、同世代として強くお勧めするところである。

 四半世紀前に若い獣医さんたちは、小鳥の専門治療を志した。実に立派で有り難いことだったが、彼らはヨード欠乏国の中でも特異な現象を、海洋由来のヨウ素がエアロゾル化し空中を漂い、土中に染みわたっている日本に当てはめてしまい、過剰に対する危険性の認識をせず、むやみに患者の小鳥に投与させた結果、

 「甲状腺腫はセキセイインコに著しく、死亡原因の2番目に多く」「報告は少ないですが、ブンチョウにも著しく多く、その発生頻度はセキセイを上回る可能性があります」

 などと、自分の動物病院の患者たちに、ヨウ素過剰症を大量に引き起こしてしまった。その惨状を、図らずも自白しているのだから(P136)、あきれてしまう。
 なぜ、「報告は少ない」にもかかわらず、「その発生頻度はセキセイを上回る可能性」があるのか、論理破綻の典型で私には理解できない。私は2000年の段階で、そのような病気は文鳥には珍しいことを、飼育した文鳥たちにそういった症状が無いことから知っているので、常識を逸脱した『指導』に従うことなく、その後、子々孫々と20代まで代を重ねることが出来て、しかも甲状腺腫と無縁に過ごている(特殊例はあったかもしれないが病院に行かないのでわからない。ただ、甲状腺腫症状でバタバタ死んでしまうような事態はない)。
 経験もなく獣医さんを信じたい人は、せいぜい気をつけていただければと思う。

四半世紀ぶりに「発掘」された紙きれ、ボールペンで線を引っ張ったり囲んだりしたのは若き日の小嶋氏

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