ペレット肯定論の薄弱を憐れむ

 ペレットは文鳥やセキセイインコなど穀物食(シード食)の小鳥にとって、無用の長物、たんなる蛇足、必要のない次善策でしかない。つまり、自然なシード食が最善だと、この問題を取り上げてから四半世紀の時を経て(『文鳥問題』)、きっぱり言ってしまう覚悟をしたことは、たびたび述べたところだ。ろくなことにはならないペレットは、商売で売ることもやめてしまった。元々売れないので、影響はないのだが、一応のけじめである。
 そして、昨夜、四半世紀も一貫して鳥種を分かたずペレットを推奨している横浜小鳥の病院の海老沢先生のご託宣も、アンチテーゼとして頭に入れておこうと思いついた。そして、さすがと言うか専門外の情報を「みんな知ってる!?」とファミレスでしゃべくる情報通のママ友ボスも同然の軽やかさで、2021年に「野生に学べとは何か?」として、野生に学ぶとは野生の真似をすれば良いというものではないという実にまっとうな意見を軸としながら、ペレット使用を肯定する荒技をユーチューブで開陳されているのに気づき、今さらながら拝聴した。

 なお、質疑応答の部分がとても有意義な企画に思えるのだが、私の場合は鳥種による違いを強烈に意識しているので、意識的に聞かないことにして、海老沢さんのご主張の部分しか視聴していない。
 また、すでに↑にイヤミを書いているように専門外への口出しはママボスレベルと見なし、余計なことを言わないで欲しいと思いつつ、海老沢さんのことは尊敬している。研修医を多く受け入れて、曲がりなりにも小鳥を診察できる獣医さんを増やすのに多大な貢献をされているからである。

 ・・・・・、でここまで困るとは思わなかった。「ペレットを与えよ、さすれば救われるのじゃ!」なら、それは信仰なので、飼育している小鳥はかわいそうだが、飼い主個々の判断で勝手にすれば良いと思っていた。一方で、とても重要なデータなどで自説を補強しているのかもしれないとの期待もわずかにあった。しかし、そのご主張は、ペレットを正当化するための無理筋ばかりで、とても首肯できないどころか、こじつけが幼稚に過ぎて、むしろペレットの問題性ばかりが鼻についてしまうものだったからである。

 まず、この動画では、海老沢さんは1980年代の学術調査を根拠にセキセイインコは野生では穀類ばかり食べているという事実を基に、栄養バランスが悪い野生状態では、飼育下の半分しか生きられないとされている。しかし、この海老沢さんの解釈は特異だ。野生で短命なのは、老いれば喰われてしまうからで、栄養状態を問題視する人は普通いないはずだからである。
 何しろ、セキセイインコの英名「budgerigar」は原住民が「ベッチェリガー」と呼んでいたのに由来し、原住民は「美味しい鳥」という意味で呼んでいたとされる生き物なのである。長生きできるわけがあるまい。

 海老沢さんは長生きさせることこそが正義だと信じて疑わないようだが、それは一種の職業病で、必ずしも真実ではない。そもそも、生命は長生きするための存在ではないのである。生命は繁殖し自分のDNAをより多く残すという何らかの呪縛を受けた存在で、それが達成されるまで生きていればOKとされるのが真実なのだ。
 もちろん臨床医は知らなくても構わないが、これは生命科学の初歩的な話だ。実際、『ダーウィンが来た!』のようなテレビ番組を見ているだけでも何となくわかると思うが、産卵したら「はい、さようなら」と死んでいくのが当たり前の生き物が多いのである。
 つまり、セキセイインコがコアラがユーカリの葉しか食べず、パンダが笹ばかり食べるように、ほとんどシード単食であるがゆえに栄養失調になって長生きできないという、コアラやパンダの「立場」を無視したびっくり論理が事実でも(どこかで最低限にまかなうシステムがあるのだろうと考えないと、そもそもその栄養素が生命の維持に必要なのか疑念が生じることになるのだが、そうした事の重大性に気づかないようでは、栄養学や動物学で私見を公にしない方がやはり無難かと思う)、当たり前なのである。本来ならすでに終わっているが、何らかの作用でなぜか生きているのが長生きの本質で、そのような状態は自然界の被食動物にはありえないのである。つまり、長生きするか否かの命題に、ご本人が指摘するように「野生では」の比較は意味をなさないのである。

 私は「太く、なるべく長く」を文鳥を飼育するにあたっての指標としてきた。昔からである。おそらく1999年にサイトを作った当初から書いている。生命科学をかじって書いたのではなく、実感としてそう思っていただけだが、それは生命として自然な姿と、自らが「なるべく」の存在になっている今なら言える。
 動物は太く生きるべく環境に合わせて進化をしている。ところが海老沢さんは、太く生きることを抜きにして長生きばかりを考えている。それは自然かと言えば大いに不自然だ。もちろん臨床医としては当然の感覚かもしれないが、生命の在り方、つまり繁殖向けて成長して繁殖を終えれば、生命としての役割を終えてしまう、という真実をわきまえず、「太い」部分を抜きにして「長生きは正義」などという無関係な価値観を押し付けられても困る。
 では、海老沢さんの言うように、硬いシードは消化に悪いので短命の元になるが、野生だとやわらかい段階でも食べているからまだましだ、とする(実際は訥弁で明瞭さに欠ける)のはどうだろう?それこそ、栄養学や行動学を知ったかぶるのならまだしも、鳥類の身体構造については私のような素人に比べればはるかに博識でいらっしゃるのに、何をとぼけているのか心配になるだけである。
 硬いものを主食にするからそれに適した身体構造になっているのをご存じないわけがない。胃に悪い?そっくりそのままお返ししよう。硬いものを消化するため、穀物の外殻をクチバシで割って飲み込み、それも一時そのうに溜めて水分を含ませて柔らかにして腺胃に送り、強酸の消化液でドロドロにして筋胃におくり、蓄積された砂粒などの鉱物で摺りつぶされて消化しやすくなった状態にして腸に送る、そのようなシステムに進化している生き物に、そのうも筋胃も必要のない柔らかなものばかり食べさせて、それらの器官に不調は起きないのか?
 使いすぎると良くないと想像しておきながら(想像でなければエビデンスが必要)、逆に使うべくして存在する器官の働きを止めてしまった場合の影響は想像しようとさえしない。それは、バイアスのかかった議論であり、あまりにも軽率で稚拙と言うほかあるまい。ましてや、ご自分はペレットもシードも商売として扱っている立場なら、少しは言っていることとやっていることの整合性を意識すべきかと思う。

 最もわかりやすいのはクチバシだ。本来、穀物の外殻をむいて食べるのに、それをせずに柔らかなものをかじるだけになれば、変形などのリスクが増えているのかもしれない。人においては、やわらかい物ばかり食べていると、あごの筋肉が衰えて咀嚼が出来なくなり、歯医者さんに叱られるだけなら良いが、さまざまに悪影響が起きる。鳥ではどうなのか、研究がないどころか考えもしないなど、よほど能天気と言わざるを得ない。
 また、四半世紀の時を経た現在は、人工のエサを与えることによる弊害が、ドックフードなどで顕在化している。ひとつはアレルギー症状の多発である。使用する原料の問題(抗生剤などを多用した鶏肉の使用など)か、酸化防止のための化学物質の問題か、鶏肉なら鶏肉ばかり食べること拒絶反応か、特定は難しいが、ドックフードが原因となってアレルギーとなって、食べられる食品が極端に減ってしまう事態が多く発生している。鳥用のペレットではそうした負の側面は無いのであろうか。
 また、犬猫では、ドックフードによる簡便な食事によるエンリッチメント(飼育下の動物の福祉向上のために、環境に刺激や工夫を加えて心身を豊かにすること)の不足が問題視され、無気力な状態にしないため、おやつやおもちゃで、かじったりなめたりする自然本来の行動を引き出す努力が求められるようになり、その動きは大型インコにも及んでいるが、その点、小型種に用いる場合の注意をペレットを推奨する際にしているであろうか。犬猫と違って、自然本来の食べ物そのものとも言える穀物飼料を与え、それにより飼育下で繁殖し、それも何百年も続いているものに対して、それを否定できるのか、少し常識的に考えていただきたいものである。

 栄養的にいろいろオールインワンだからOK 、では済まなくなっている。鳥の医療従事者も、いかに飼育について無知であっても、無気力なただ生きるだけの籠の鳥を増やさないように、ご注意いただきたい。

 ご意見がある方はよくよく考えてから、コメントにどうぞ。スパムが多いので承認しないと掲載されませんが、批判も非難も、はじいたり、改ざんしたりしないことは、お約束します。

※↓は小松菜大好き文鳥のエサの盗み食いも好きなウチの看板娘にして女王陛下のピヨちゃん(レインボーホワイトフェイス)

コメント

タイトルとURLをコピーしました