
昨日、『飼鳥の臨床指針』という動物医学と言うか動物医療の専門書が届いた。
これは、1月に、ヒナの世話に追われて疲労困憊の極みの私に追い打ちをかけた「クロダ骨折事案」の際、何でも診療すると看板に掲げる自転車圏内の動物病院で、1/6が死ぬ可能性のある全身麻酔をした上で、学窓社のマニュアルらしきものを片手にした臨床医の経験にない小鳥の骨のピン止め手術をさせなければならない、と言われ、あまりにバカげていて思考停止になりかけながらの会話の中で(単純骨折では普通死なないのに、1/6死なせる手術をするという感覚はどこから来るのであろうか?!)、その危ない臨床医の口から、「鳥の先生と言えば浦和の先生は聞いたことがある」といった言葉があり、「女性の先生ですか?」と問い返した、という経験に端を発している。
埼玉県さいたま市浦和の小鳥の先生と言えば、石森先生だ。この方は、日本最初の小鳥の専門医である高橋達志郎の一番弟子に位置付けられるはずの人で、2000年頃にはインコ系の一般書の医療に関する監修などをされていた。一方で、そのころの私は、その先生の同門で高橋達志郎の内弟子にして後継者と言える広瀬先生に文鳥を診てもらっており、ごく目の前で、誰の助けも借りず、左手に持った小鳥にギプスをしたり、切開手術をしたりして頂いて、その超絶の匠の世界、ほとんど神技に舌を巻いていた。
つまり、最近の臨床マニュアルには骨折の際のギプス固定の記載がないようだが(他に手段が書かれていないと言っていた)、昔のマニュアルにはあるだろう、と類推したのである。何しろ弟弟子が実演して見せたやり方は、師匠の高橋達志郎が一般向けの本で紹介されているものそのままなので、ご自身の一般書(『手乗り鳥の健康の本』2002年刊行)では何もせず安静を説いている「姉」石森先生も、専門書の方には記載しているに相違なく、確認して、今の動物臨床医に、
「なぜあなたたちは、昔の臨床指針が挙げる方法が出来ないのですか?」
と嫌味を言いたかったのである。
もちろん『飼鳥の臨床指針』の存在は、昔から知っていた(2000年刊行)。しかも、「浦和の男の方の小鳥の先生」が、ブログで『飼鳥の臨床指針』を書かれた石森先生にご挨拶する機会があったと喜ばれている記事も見かけてもいた。従って、昔の方法も学ぶ姿勢のある鳥の専門性をかかげる臨床医にとっては、必携であるべきものだったのだろうと推察もしていたわけだ。ところが専門書だけに、四半世紀前の定価が2万円!だ。私は、もちろん動物医療の専門家ではない。昔の知恵に学ぶことが出来ないような専門家を名乗るのが不思議な人たちに(学問というのは昔からの研究の積み重ねなので、昔の論文や関係書などを可能な限り読んで把握するのは当たり前、と思っている)、嫌味を言いたいだけなのに、「クロダ」のちゃちなテーピング費用と同じ額のお高い本を買えるはずがない。ところが、メルカリで1600円送料込みで取引された情報を目にして、タッチの差で逃したか!!2000円以下なら、元値の1割、買って損は無かったのに!となり、出品されたら通知されるようにしておいた。
そして、忘れた頃に通知があり、・・・さらに破格の1399円だった。最安値更新、やったね!!だ。1000円札もいとおしい心情だったが、二度とチャンスは無いように思ったので、さっさと注文して、届いた、というわけだ。
・・・実にしっかり書かれていて↓、「一般にカゴの中で飼われている飼鳥では、外部固定で充分である」と、すでに存在した、ピンニングを明確に否定までしている。2000年のこのような指針が反故にされ、なぜピンニングが当たり前のことになってしまったか不明だが、小動物専門の獣医さんが、看護助手の人たちと3人がかりで行ったテーピングを、当たり前に一人で直した私に言わせれば、ギプス固定は手慣れていないと技術的に難しいだけ、となる。平たく言えば、昔に比べて手技では劣化しただけ、だろう。しかし、自分が不器用で出来ないからと言って、必要のない手術を基本にするようでは、何が専門なのか疑わしいのではなかろうか?むしろ、培ったその専門性は、レントゲンの診療放射線技師に近いのでは?と、これまた嫌味を言いたくなる。
現在の小鳥の専門性の高い臨床医の骨折治療の典型は、こちらで確認できるのではないかと思う。「手術症例:脛足根骨骨折整復(ピンニング術)」とある。実に丁寧な記述で、この臨床の先生の真摯な態度や外科的技術力の高さがうかがわれるが、残念ながら、その学んだ知識に『飼鳥の臨床指針』の影響は感じられない。
「外固定のデメリットは鳥はどうしても動いてしまうため骨がまっすぐつながらないことがあり歩行の左右差がでてしまうことがあります。まっすぐに元通りの歩行を目指すには外科によるピンニング術が必要となります」
その通りだが、その正論は元通りに整復することについてのみを考えた結論である。ピンニングは外科手術を伴うので、費用がかかるのみならず、治るまで時間を有する。放っておいて安静にしていれば1週間でだいたい治ってしまう単純骨折が、完治まで1ヶ月もかかってしまえば、その間、隔離して安静に生活となるだろう。1羽飼育ならそれでも良いが、仲間と同居させていた場合、元の関係に戻れない可能性が高くなってくる。
誠実な臨床医であればこそ、何もしない場合(徹底的な安静)、テーピングした場合(かなりの安静)、ギプスした場合(普通に隔離生活)、ピンニングした場合(完全に元どおりになる可能性が高いが費用も高く完治に時間がかかる)、くらいの選択肢は提示したに相違ないが、「歩行の左右差がでてしまう」と言われたら、素人の飼い主は1枚5千円のレントゲンを「念のため」「確認のため」とやたらと撮影されても文句も言えなくなるだろう。いくたびにわたる万単位の出費を強いられても、飼い主として正しい選択はピンニングだけ、と思うのではなかろうか。
しかし、実際は、四半世紀前まで「一般にカゴの中で飼われている飼鳥では、外部固定で充分である」とされていたと聞けば、考えは少し変わったかもしれない。そもそも、飛べる小鳥に歩行の左右差など多少あったところで、二足歩行動物が「びっこひいて歩く」のと同様な日常生活上の影響などない。もちろん、実際問題として、「歩行の左右差がでてしまうこと」など稀で、最悪、多少生活上問題が起きる障害が残ったとしても、飼い主が面倒を見れば良いだけである。社会生活を送る二足歩行の人間とは違うということを、しっかり飼い主に説明しているだろうか?
完璧な治療をしたいと思うのは当然だが、それは一面の真実でしかない。飼い主のことを考え、飼育環境で出来ることを考えなければ、結局、その小鳥の幸福にはつながらないだろう。完璧な治療をして元どおりになっても、仲間外れになれば、その小鳥は不幸になるかもしれない、費用がかさめば飼育が困難になって、飼い主は不幸を感じるかもしれない、それを含めて考えられないようでは、臨床医としては褒められたものではあるまい。
2000年の段階で、単純な骨折でケージ内で安静にできる場合、臨床の指針としてピンニングは否定されている。にもかかわらず、四半世紀後の今現在それが当然とされている。それが正解と言えるのか、昔の方法論もしっかり学んで、現在の優秀な「バードック」たちも自問自答が必要になるかと思う。


