「一代飼い主」を増やすだけでは困る

 さて、私はとびぬけた天賦の才を持ち合わせず、限られた才能でやりくりしている感覚を常に持っている。例えば、社会科の教師など前日に一所懸命覚えたことを「君たち、こんなことも知らないの?」と生徒に教えるものだと信じていて、実際自分もそうしていたし、先輩後輩同僚みなそうであった(私の場合、中高の社会科など暗記したかしなかったかだけ、勉強したかしなかったかだけなので、学校の定期試験などみんな答えを教えてやって高得点で「自分はできる子」と錯覚させてやる気になればOK、な教科だと信じており、試験前の最後の授業で「試験にでま~す!」を連発して、まじめにひっかけ問題など考案したがる大学の後輩から控えめな苦情を言われたりしたのだが、「君も大いにバラしてしまいなさい」で済ましてしまっていたことを、この際告白しておこう)
 したがって、医療従事者として有能とされる海老沢さんが、ご著書やユーチューブなどで飼育したこともない、もしくは「小学生の時飼ってました」レベルの文鳥に対して、専門分野からはるかに離れた広範な知識を開陳されても、一夜漬けの浮薄な知識に相違なく、聞きかじりの知識でマウントを取りたがるママボスと変わらないと見えてしまう。もちろん、彼が神のごとき博物学者で、有り得ない話だが経験を圧倒する知識の持ち主(知識は経験の蓄積でもあるので、本来的に有り得ない)であっても、それならそれで専門知識を深めるのには邪魔なだけの呪われた才能を持って生まれて気の毒に思えるだけである。ヨード過剰で多くの文鳥を死に追いやっていた可能性があり、それが先学の研究を疎かにした不勉強の結果だと指摘したが、まさに当事者の主要な一員とも見なせるので、その勤勉な態度を若い頃に生かしてくれていたら、と残念至極である。それくらいのイヤミは言いたくなるところだ。

 飼い主なら、そう、生き物の一生に責任を持つ身なら、他人の天才を求めないで、自分でしっかり考えないと、ヨード過剰のような取り返しのつかないことも有り得る。飼い主なら、他人に尋ねる前に、自分の子が文鳥なら文鳥の、セキセイならセキセイの様子を見て感じ取らないといけない。他人に教わらなくても答えはそこにあるのに、ユーチューブで明後日(あさって)してる(専門外で能書きを垂れている)人にカリスマの幻想を抱いて踊らせても、誰の得にもなるまい。本業に専念させてやるのが、本当の親切ではなかろうか。

 長生きさせるにはどうやって飼育したらよいのか、考えるのは当然のように思えるが、意外なことに、それこそが大きな勘違いなのである。長生きさせたいことばかり考えて、繁殖したいと本能に突き動かされる文鳥を見ても、その気持ちなどわかるわけがないではないか?なぜ、「長生きすればハッピーハッピー!」といった若く青く浅いだけの自分の思い込みを押し付けたり、「長生きしてくれないと納得できない」とか、自分が自分がと飼育者側の人間本位で見て接していることに気づかないで、相手のことなど理解できようか。少しばかり冷静になって、自分の子のことをよく見なさい。と先輩としてはアドバイスしたいところだ。

 文鳥は大型インコのような繁殖を前提としない生き物(であるからペレットでも問題は少ない)とは違うのである。相手は繁殖のため活き活きしているのに、「産卵しちゃうかも」「卵詰まりになったらどうしよう」「薬で産卵を抑えられないかしら」、などと考えて、それで産卵を抑えたから長生きできたと確認できるデータなど無いことには気づかない。10年しか生きられない生き物なので、病気の進行も単純に考えれば人間の10倍で不思議はなく、それは、半年に1回程度健康診断などしても無意味であることにも気づかない。当然の結果になったケースには目をつぶり、一生病院に行かない文鳥が圧倒的多数で、それで長寿を保つ子も多いのを知れば、病院通いは長寿に結びつかないのではないかとの疑問が渦巻いていることくらい気づくべきだ(院内感染も疑えるし通院ストレスも受診ストレスも可能性としては考えられる)。様々な無知に基づくリスクをわきまえない初心者チックな善人に対し、外見を観察する程度の検診を薦める飼育経験のない獣医師とは何であろうか?わかるわけがないだろう。彼らは診察台で緊張した姿しか見ることが出来ないのだから。そのような飼育素人の他人が見て気づくことに気づかなかったとしたら、自分が日ごろ何も見ていないことにこそ気づくべきだろう。
 より高価なエサ、診察料、診察させるための費用も人によっては高額になる。しかも様々な病気のリスクがあって・・・、などと飼育を難しくお金のかかるものとされては、飼育しづらくなるだけだ。実際、一生を看取ったらハイさようならの一代限りの飼い主のなんと多いことか。口の減らない獣医さんが問題発言や診療をしても済んでしまうのは、そのての獣医さんに行くのはこの一代飼い主が多いからではないか、と私は思っているが、ベテラン飼い主にはあきれられ敬遠され、飼育数が激減していけば、自分の首を絞めることになる。否、もう締まってるはずだ。

 飼育を軽々に論じてはならない。種類が多くそれぞれで違うからである。専門外の知識をひけらかし、客離れを起こしてはつまらないことくらい、認識しておくべきだろう。

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