ペレットは大型専用フード

最期までおいしいごはんを食べてほしい

 日本の鳥医療における問題は、結局のところ、小型と大型の区別ができておらず、大は小を兼ねると錯覚し、小が中心だった昔の知見を生かせなかった点にあような気がする。
 せっかく高橋達志郎のような不世出な人を得ながら、その小型鳥類の飼育観察研究治療の実践に基づく、いわばボトムアップ型の知見を生かせず、大型インコの治療技術をいわばトップダウン型に啓蒙しようとしたのは、間違いではなかっただろうか。
 上すべりの浅慮ゆえに、1970年代には常識となっていた、ヨーロッパの獣医学的知識をわきまえず、2000年代の借り物の知識に頼った。その基礎に、実際の飼育経験の欠如と、大は小を兼ねる、大型を飼育できれば小型など簡単、といった、粗雑に過ぎる意識があったのではないかと、私は大いに疑っているのである。
 その典型がペレットの推奨だ。もちろんペレットは、食性に合った自然の食べ物を用意しがたい大型鳥類の飼育には有効なものだが、小型にはその利点などほとんどないと言って良い。そもそも、水に浸せば発芽するような生きたエサを主食とする生き物に、わざわざここれ以上なく不自然な加工品を食べさせる理由など、ナチュラル志向の人間には考えるのさえ難しいだろう。
 冷静に考えれば、25gの文鳥と400gのヨウムでは、共通事項など少ない。それは、70㎏の成人男性を、闘牛大会で優勝した1100㎏の牡牛と比べるに等しいのである。どちらも体重差は約16倍で、その体重の違いは、食性やその他習性の違いに及ばずにはいない。いったい、空を飛ぶから同じなら、地面を足で歩けばみな同じと言えるか、少しでも考えたことがあるのだろうか?
 小型には食性にあった飼料があったから、代々繁殖飼育が行われてきた。これは動物園の猛獣と異なり、エンリッチメントを実践できていたからと見なす他ない。もちろん、穀類だけの偏ったエサで長命を保つのは難しく、特に産卵するメスの栄養不足は短命につながり、雌雄での価格差も生じることになっていた。したがって、必要となる改善は、カルシウムなどミネラルを補給する副食(ボレー粉)と、ビタミン類を補給する(青菜)の供給にあり、それを啓蒙すべきだったはずだ。ところが、従来の飼育方法から何も学べなかった彼らは(何しろ問題意識をもって飼育したことがない。観察したこともない。診察したことしかない)、せっかく実践できていたエンリッチメントを破壊する人工の加工エサを無批判に推奨した。
 おかげで、日常のメンテナンスとしては栄養不足にならないかもしれないというだけで、嗜好性の低い人工エサを強い、殻をむくという自然な動作を奪い、繁殖の際に急に必要とされるミネラル不足を招いた。それは、およそエンリッチメントとは正反対の不自然な飼育方法と言わねばならない。なぜ、わざわざそうしなければならないのか?
 エンリッチメントが実現して自家繁殖が普通に行われている小型鳥類と、一般家庭での繁殖はほとんど考慮されない、つまりエンリッチメントとは程遠い飼育環境が前提となってしまう大型鳥類では、比較などできない。大型インコに必要とされ重宝しているものでも、小型では無用の長物でしかなくても不思議はなく、まさにそれがペレットだ。もし文鳥の飼育でペレットを勧める人がいるなら、その人がその鳥種について、患者を医学的に治す以外の面で「有識者」なのか疑うべきだろう。

※ エンリッチメントとは、(AIによると)「動物の飼育環境をより豊かで充実したものにし、動物本来の行動を引き出し、精神的健康を増進させるための様々な工夫」のことです。本来、動物園などで繁殖せず飼い殺しになってしまうことを防ぐため、ただ食べさせるだけでなく、本能に基づいた生き生きとした行動が出来る環境を整え、繁殖行動を引き出そうとする試みを説明するのに使用される用語です。
 その一つ採食エンリッチメントは、「餌の隠し方や配置、複数回に分けて与えるなど、野生での採食行動を再現するように工夫します」とされ、文鳥飼育では、殻付きのエサで自分で殻をむいて食べるようにしたり、青菜を固定して与えて自分でちぎって食べるようにする、といったことが挙げられます。
 自然の食べ物があるにも関わらず加工品を強いたり、食べる量や時間を制限したり、自然では考えられない試みはエンリッチメントの考え方とは違った方向性と言えます。ダイエットは運動量を増やす(文鳥の場合水浴びの役割が大きい)のが基本でストレスを減らすのも有効な対策ですから、質量を制限してかえってストレスを与えるのは考えものでしょう(根本的な考え方の相違)。

コメント

タイトルとURLをコピーしました