ジャクボーの納戸


 ついに、ここまで来てしまいましたね。ここから先は文鳥とは関係のないことしか載ってませんよ。ここはジャクボー(雀坊)、またはユウ・ジャクボー(有雀坊)、「有若亡」(有って亡きがごとし)からくるペンネームを称する人物が好き勝手をし、まったく脈絡なしに突発的に出現する危険なページで、その中身は何ら意味がありません。引き返されることを強くお薦めします。

▼△表紙に撤退する△▼『団地』に遁走する▼△


残暑はカレー

 「男子厨房に立たず」この慣用句を発する男がいたら、そいつは馬鹿である。たんに不器用で怠惰なために包丁一本持てないだけの話なので、理屈のない戯言など言わずに、己の不明を恥じつつコンビニ生活をつましく送っていればよいのだ。

 ジャクボーは違う。

 すでに小学校の家庭科ではキャベツの千切りで賞賛され、中学校の野外学習のカレー作りでは、不手際の女の子など追っ払ってジャガイモの皮をむいていたものである。

 そうカレー、これほど重大な料理はない。ジャクボーの恩師はカレーを煮込みつつ「男のロマンだ」といっていたほどだ。

 しかしその大学教授のカレーは豪華な魚介類にロリエなんて入れたもので、貧乏で現実的な弟子は決してまねをしない。大体カレーの具はジャガイモ、にんじん、たまねぎに肉と、有史以来決まっているのだ。その他の物を入れるのは邪道である。ロリエなんて葉っぱもダメだ。近所のスーパーで特価150円で売られているカレールーだけでいいのだ。

 何事も哲学がなくては、哲学が。

 大金と手間暇をたっぷりかけるくらいなら、外でプロの作ったものを食べればいい。十分で作るくらいならレトルトでいい。具材がでかいのはシチューでたくさん。肉以外はみんな溶けてなくなっているくらいが鉄則。
 つまり、家庭のカレーは安上がりで、手間がかからず、さらに具は小さくなければならないのである。

 

材料の調達

 カレーのルーは数多ある。だが、カレーは辛くなければ存在理由さえなくなるので、間違っても、りんごと蜂蜜が入っていてはいけない。しかし日本は熱帯じゃないので、辛ければいいってものでもない。「中庸がよろしい。」と昔の人もいっている。黙って『こくまろ』の中辛(200グラム)にする。幼児がいる場合は、最後にシチューのルー(顆粒がよい)を加えて、辛味をとればいい。必要以上にガキに合わせる必要はない。

 ジャガイモ、たまねぎ、にんじんは腐ってなければなんでもいい。減農薬だの、有機だのといっても知れたものではない。アレルギーでもない限り、八百屋でざる売りしてるのや、スーパーの特売品でたくさんだ。中くらいのジャガイモを三、四個、にんじん一本、たまねぎ六個以上を用意する。

 肉は400グラムは必要。そのうち半分は豚小間が適当。しかしこれだけだと、カレースープになってしまって食感がなく、味気ない。第一カレーには牛肉が鉄則である。それもひき肉や切り落としでは意味がない。固体でなければならぬ。
 とにかく固体の牛肉なら何でもいい。「オーストラリア産、牛ランプ肉、一口ステーキ用、三枚入り」などという実に怪しい安肉でよい。まちがっても霜降り和牛なんて買ってはならない。香辛料の海にそんなものを入れても無意味なのだ。

 以上買いこんでも、1500円でおつりがくるであろう。

 

調理する

 ジャガイモは皮をむいて八つ切り、にんじんは皮をむいて小さめに乱切りにする。野郎は間違ってもお花の形なんかには切らない。ベタベタ触っては汚らしい、パッパとやる。

 豚小間は一センチ幅位に切り、牛肉はスーパーで売っている『カレー・シチュー用』をさらに半分にするくらいの大きさに切る。細かい事は気にしない。とにかくパッパとすませる。

 たまねぎだけは面倒だがみじん切りにしなければならない。大きなボール一杯のみじん切りを包丁で作っていると、涙腺が壊れる可能性があるので、楽をする。何事も合理的でなければならぬ。みじん切り機を買う。本当は電動にしたいがケチなので手動。表面をとり、四分にし、底をちょいちょいと切ったたまねぎを五個くらいずつ、みじん切り機に入れ、力任せにハンドルをグワンラ・グワンらと回す。涙腺に影響はなくなる。

 よく熱した中華鍋に油をちょいと入れて、たまねぎを放り込む。あめ色たまねぎになるほどいためる気の長さは全くないので、たまねぎが完全に透けた程度で肉をぶち込む。さらにいためて、肉の表面が焼けたら、ジャガイモ、にんじんを叩き込む。

 この間隣のコンロに、水を一リットルとコップ一杯程度入れた大鍋を用意し、火をかけておく。まもなくジャガイモの表面が透けてきたら、中華鍋の中身を力任せにこの鍋の中に移す。(以上すべて強火である)

 鍋が沸騰したら、少し火力を弱め、アクを取り除く。続いてソース少々、しょう油少々、ケチャップ少々を加える。さらに調子に乗れば、冷蔵庫のめんつゆだの焼肉のたれだの、なぜかたまたま存在してしまった液体チョコだのを、少しずつ気分次第で叩き込む。

 最小火力にし、中身が混沌としている鍋にふたをする。ふたの上に重石をのせるとさらに良い。水の入ったヤカンなどをふたの上にのせたら、この混沌鍋の存在をいったん忘れ、パソコン、読書、その他諸々のことに興じる。重大事態のない限り、一時間は鍋に近づかない。

 一時間程度たち、混沌鍋のふたを開け、表面のアクを取り除き、カレールーを割り入れ、グルン・グルンかき混ぜる。十分から二十分、時々かき混ぜながら、トロトロ煮込む。

 完成。すぐ食べず、半日ぐらいしてから温めるとさらにうまい。

カレーの横にはマルヤナギのおかず大豆がよろしい。(1999/夏)

 

お終い


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